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舞台や展覧会など、さまざまな鑑賞活動の記録を綴る。タイトルとの関連はありません。


by turujun
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アドレナリン・ハート(ブッシュシアター)@シアタートラム

海外カンパニーの招聘公演というのは、「レペゼン○○(国や地域の名前を入れて読んでください)!」みたいな、実際良く出来ているけど、よく出来すぎているゆえか、心に引っかかるようなものがない、みたいなところが多い、と私は思っている。(なので、「アル・ハムレット・サミット」も観ているが、レビューを書けなかった)しかも、そういったものに限って、所謂批評家の評価は高いので、そういうものについて語れない私って見る目がないのかしらん、などと不安にかられてしまいがちなので、この作品もそうなのかしらん、などと思っていた。
 でも、実際観てみると、そんな不安はどこへやら。かなり面白く、また、イギリスのある意味リアルライフに触れられると言う点でも、興味深かった。でも、ここでいう「面白い」というのは、エンタテインメントとして面白い、というのとは違い、どちらかというと「五反田団」とか「チェルフィッチュ」とか、日本の「静かな演劇」の流れに連なりつつも新たな表現を展開しつつある人たちの作品に近いところがあり、どこか抽象的でありながら、描かれているのは、普通の人々の姿だったりする。もちろん、主人公がシングルマザーだったり、恋の相手がドラッグディーラーだったりという、イギリス社会の暗部を含むイギリスにおける「普通の人々」なので、日本のそれとはちょっと違う部分はあるのだが、基本的な流れは同じだと感じた。死人がでるような、劇的さはないものの、気休めのような救いもない普通の人々の生活を同じ高さの目線から見つめて創りあげられた物語。それがテーブルと椅子があるだけのシンプルな空間で、テレビやコメディの影響を受けた、時に自分に語りかけるように、時に観客に心情を説明するようなユニークなモノローグとかみ合ったりかみ合わなくなったりするダイアローグによってクールに、軽快に展開されていた。
 この戯曲を書いたジョージア・フィッチは、ブッシュ・シアターの新人劇作家養成プログラムのもと、この作品を18か月かけて書いたそうで、いわばイギリス演劇界の若手中の若手なのだそう。モノローグを随所に盛り込んだダイアローグといった実験的な手法が取り入れられているのも、なるほど、という感じ。一方、この作品の演出を担当したのは、ブッシュ・シアター芸術監督のマイク・ブラッドウェル。すでに舞台のみならず映像分野での経験も豊富なベテランの演出家なのだが、若い作家のチャレンジ精神溢れる作品の新しい試みに応えるスピーディで観る者の想像力を刺激する演出をしていた。驚きだったのは、劇場のプログラムとして新しい劇作家を育成する過程で、新進の劇作家とベテランの演出家が手を組むということ。日本では世代ごとで分断されていて、世代を超えた取り組みってあまり聞かない。プロデュース公演といっても、単なるいいとこどりを狙っているに過ぎないし。(しかもいいとこだけ取ろうとするので、どうしても中身が薄くなりがち)イギリスにおける演劇の人材育成の違いをまざまざと感じた次第。
 この作品が見せてくれたことは、イギリス社会の問題や、新しいイギリス演劇の流れだけではない。日本の新しい演劇とイギリスのそれは流れとしてそんなに違いはないかもしれないが、その基盤となっている部分は、かなり違う。日本はもっと異なる世代の人が若い世代の才能を尊重して、一緒に仕事をしていくべきだ、ということだと思う。
by turujun | 2004-03-10 16:02 | 演劇