舞台や展覧会など、さまざまな鑑賞活動の記録を綴る。タイトルとの関連はありません。


by turujun
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カテゴリ:書物( 8 )

ひさびさに感想が書ける本(≒小説)を読んだので、記録しておく。
内容はいわゆるハードボイルドでありミステリー。
北米のある地方で大規模な農場を経営する一家をめぐる殺人事件の謎解きであるとともに、崩壊寸前の家族の物語であり、友情物語であり、ラブストーリーでさえある。要は主人公の男性にまつわるさまざまな要素が複雑に入り混じり展開されているというもの。
最後まで謎が謎を呼んで、真犯人が分かると、「そう来たか!」と思わせられる。伏線が絶妙に張り巡らされていて、読み終えるとすごく腑に落ちる。しかも謎ときだけではなく、その背景にある人間関係がまた深くて面白い。

それでいて、真犯人が仕掛けるさまざまな仕掛けに見事に引っかかっておきながら、すべての謎が解明されると「稚拙な…」とかのたまってしまう主人公、とか突っ込みどころが意外に多いのも、別の意味で楽しい(本来の楽しみ方ではないと知りつつ…)。

なお、作者の名前で検索すると、この小説のタイトルとともに結構ヒットするところを見ると、メジャーな小説みたいですね。
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by turujun | 2009-10-28 23:59 | 書物


芥川賞受賞作でありかつ表題作の「乳と卵」は、内容自体も凄く面白いのだけど、この本全体を通した私の感想は、この本の一番面白いところは「タイトル」。

このタイトルの語感はかなりたまらないものがある。
特に、この本にもう一本収録されている「あなたたちの恋愛は瀕死」なんて本文はどうってことない(というとかなり乱暴なのだが)、タイトルはそれだけで詩みたい。

通勤時間往復約2時間ぐらいで読みきってしまうほどライトな内容だが、何度か読み返してもその口語体まじりで平仮名の多い表記の文体の面白さが消えない。こんな言葉をまたよく生み出せるな…と思いうらやましくあり。
内容以上に文字とその文体を楽しむ本だった。
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by turujun | 2009-01-22 22:29 | 書物
「日本語が亡びるとき」という剣呑なタイトルの本がインターネット上で話題になっていて、それで興味を持っていた(この本自体はまだ読んでない。)が、この件についていろいろなブログを見ていたら出てきた本がこれ。図書館の蔵書を検索したら、首尾よくすぐ借りられるようなので、借りて読んだ。
新書ということで、軽いタッチなのかと思いきや、いきなり「母語」と「母国語」の違いの定義の話からはじまり、言葉が生み出す差別、言葉の強制による国家の支配などなど、これまで考えたこともないような、いつも使っている「言葉」と「国」との関係が語られている。

あまりに考えたことがない話であっただけに、スッと理解できるようなものではないのだが、その一方でこの本の中で語られる、さまざまな事例から分かる差別・支配の歴史の残酷さに一瞬頭がくらっとしてしまった。

新書なのに、さらりと読めない。そんな感想で2008年最後の投稿とします。では、また来年もよろしくお願いいたします。
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by turujun | 2008-12-30 22:12 | 書物
今日乗った京浜東北線山手線、東西線の全てで、うっかり乗り越してしまいそうになったのは、この本のせい。
もう読み出すとどうにも止まらない。

3話に分かれているのが幸いで、話の切れ目で読書を中断で切るのだが、そうでないところで中断したときは、隙あらば本を取り出して、一気に読んでしまった。

この作品は、著者が多感な思春期を過ごした在プラハ・ソビエト学校でであった三人の大切な友達の、それぞれの当時起こった事件や、大人になって彼女達との再会までの経緯と、再会してからの彼女たちそれぞれの暮らしぶりと会話で構成されているドキュメンタリー。
描かれているのは、小学生から中学生にかけての多感な時期ゆえの学校生活のオモシロエピソードや再会の感動的シーンだけではない。彼女達は著者も含め共産党の関係者。それゆえに当時の共産主義国家同士の対立や、母国の体制崩壊や民族対立といった激動の社会情勢に皆翻弄される。この作品の中に出てくる人には、こどもの頃に語った夢が叶った人は誰一人いない。しかし、それでありながらも自分の生活を築き、幸せに生きようとしている。

学生時代の世界史の教科書にかかれてはいるものの、授業時間が足りないがために省略されがちで、それゆえにどうしても漠然としたイメージと、文字で読んだだけの知識で構成されている旧共産主義・社会主義国家の国々を、ぐっとリアルに感じさせる作品。
新聞・TV・雑誌だけではなく、学校の授業でもいかに偏った情報しか得ていないのかを感じさせられた。

それにしても、著者・米原万里の友情の厚さ、行動力がスゴイ。プラハでの居住経験と、ロシア語同時通訳で活躍していたことでロシア圏で言葉に困ることがないというアドバンテージがあるとはいえ、音信不通になっていたこどもの頃の親友捜索を、わずかな情報を頼りに実行できるなんてなかなかできることではないし、結果として彼女は三人に見事再会している。

必要があれば戦火の中へ飛び込むことをいとわないほどに「会いたい」と思える友達を得た米原万里がうらやましい。
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by turujun | 2008-07-26 22:32 | 書物

池内紀「出ふるさと記」

池内紀といえば、ドイツ文学者として、多くの小説を翻訳され、かつ小説やエッセイも精力的に書かれている方。

その彼の近著がこの「出ふるさと記」。日本の近現代の小説家の「ふるさと」とのかかわりを描いたもので、もとはというと「新潮」で連載されたものをまとめたものだという。
この中で、取り上げられている小説家は12人。高校時代の国語便覧の近現代の項で太字ゴシックで取り上げられることはなくても、名前は載っているぐらいの人気と知名度の人達だ。つまり、極私的な感覚でいうと、多少の差はあれども超有名というわけではない。
なお、私がこの中で少しでも読んだことがあるのは、阿部公房、坂口安吾、中島敦、寺山修司のみだった。

「出ふるさと」としているだけに、そこで描かれるのは作家の人生そのものだ。

ある人にとっては、「ふるさと」とは思い出すものであり、ある人にとっては確かめるものである。また別の人にとっては何度も何度も戻っていくところだったりもする。そのことと、それぞれの作家が作り出す作品とのかかわりが、この本の中で語られている。
知っている作家のものであれば読んだ作品を頭の中で思い出しては「ああ、そういうことか」と思い出して楽しめるし、知らない作家のものであれば、この作家の代表作ってどんなものだろう?と興味が湧く。

基本的に、その人の人生と創作とふるさととの関わりについて書かれているものだが、一本だけちょっと傾向の違うものがある。
それは中島敦の項。
中島敦といえば、漢文学者の家系に生まれたことから自身も漢文を能くし、その影響が出ている優れた短編小説は、「近代日本散文の見本」とされているが、このエッセイによると英語も堪能で、生前勤め先の女学校で、国語と英語を教えていたという。
そんな中島敦が、「狼疾記」という小説の中に、カフカの「あな(現在の訳では『巣穴』となっているそうです)」という小説の感想が出てくるところから、この小説についての解説が入ってくる。そしてこのエッセイのみ、中島敦と、カフカ、そしてふるさとの3つの要素のかかわりについて書いているのだ。
やはり、カフカ小説全集を翻訳した池内氏だからこそ、ここは見逃すことができなかったのだろうか?「あな」のあらすじにページを割き(3ページ強)、そこからガッツリと中島敦のカフカ作品への興味とその影響、そして中島敦の人生とカフカのそれとの類似性と、「カフカ」について力強く語ってしまう池内氏の興味のありようが、また面白い。
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by turujun | 2008-06-27 00:17 | 書物
「世界一の映画館と日本一のフランス料理店を山形県酒田につくった男はなぜ忘れ去られたのか」このブログの本文作成欄の横幅一杯に文字が並ぶほど長いタイトルの本。

この本は、タイトルが示すとおり、山形県酒田市に世界一と評された映画館「グリーンハウス」と、日本一と評されたフランス料理店「ル・ポットフー」をつくった故・佐藤久一氏の伝記。
タイトルは上記のとおり大変長いが、気がついたら1時間ぐらいで読み終わるぐらい、面白い。

以下ほぼネタバレです。






映画館であってもレストランであっても、常にお客様の幸せのためにできることを考え、それを実行していく一方で、それによるコストは全く考慮しなかった佐藤久一。
映画館およびレストランの初期は、財政的なバックアップがあったことと、経費面のコントロールができる人材がいたことから、時流を先取りした施策を次々に打ち出すことができ、それがことごとく当たっていったが、年月を経るにつれ、時代の流れによる消費者行動の変化や、競合他社の登場へ対応ができなかった一方で、人件費・材料費を度外視したサービスの追求と、本人のアルコール中毒の悪化による人材の離散、それにともなうサービスの質低下により、赤字はどんどん増えていき「ル・ポットフー」は経営危機へと追い込まれ、ついにはそこを追われてしまう。

前半の華やかさからすると、いくつかの店を転々としながら再起を図るも、アルコール中毒の悪化や食道ガンの罹患などにより思うようにならず、新しい店の構想を抱きながら他界するという寂しい晩年、また酒田の町に残した功績が一つの、大きな失敗により封印されてしまっているという現在は残念としか言いようがない。
ただ、本人にとって、酒田の町のためにやってきたことが賞賛を得ることを目的にしているのではなく、そうすることが自分の喜びであり、自己表現でもあったのだろうと思われるところが救いなのではないかと思う。

この本を読んでいて分かるのは、お客様に最高のサービスを提供することが大切であるというのはもちろんなのだが、コスト管理ができてこそ、そのサービスを提供する場が存続できるという当たり前といっては当たり前の事実。
何だかんだ言われても、サイフの紐をきちんと握っている人材というのは何かことを起こす上で必要不可欠なのだと実感させられる一冊だった。


【余談】
演劇制作者向けウェブサイト「fringe」で「いますぐ読んでください。そして、劇場に観客を呼ぶアイデアはいくらでもあることに気づいてください。制作者必読の一冊です。」この本を激しくプッシュしてます。
アイディアとその実行力という点では大いに参考になると思いますが、合わせて「理想の追求も良いけど、コスト管理もきちんとね!」という反面教師的な部分もぜひ押さえてもらいたいなあなどと個人的には思わないでもないです。
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by turujun | 2008-06-02 22:06 | 書物
表題作「ナイフ投げ師」をはじめとする、12の短編が収録されている。

死に対して恐怖を抱きつつも魅せられていくような不思議な作品と、現代社会の闇の中に潜んでいる秘密の物語、究極を目指すことでその限界を超え破滅へといたる人とモノを描いた作品など、空想と現実の境界上にある世界が描かれている。幻想的であり不穏な世界観は本当に独特。でありながらも、現実の世界の闇や世代間の断絶を感じさせるところが面白い。

私が特に気に入ったのが、「協会の夢」「パラダイス・パーク」。究極へと向かっていこうとする中で出来上がっていく造形物を、あたかも実在するものであるかのように緻密に描写されているところがスゴイ。特に、死と隣り合わせのスリルに身を投げてきた人々に、最後に本当の危険と恐怖でもって、究極のスリルを与える「パラダイス・パーク」の結末には、すごくカタルシスを感じた。

すごく面白い!と思ったものがある一方で、一度読んだだけではその物語を受け止めきれない作品があるのも事実。読んでいて、ストーリーは分かったが、この結末になるのは何故なんだろう?ということが理解しきれないのが、私的に悔しいところ。

原文はいったいどんなものなんだろう?すごく興味がある。
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by turujun | 2008-06-01 23:18 | 書物
相手を賛美することで、徹底的にけなしたおす「反語法」。反語法と言うと「いわんや~おや」という古典のあれを思い出す私だが、ここでいう反語法というのはロシア語でよく使われるものだととある記事で知り、その良い例としてこの小説が挙げられていたので興味を持ち、読んでみた。

そうしたら、これがめっぽう面白い。約400ページぐらい本であるにもかかわらず、隙を見ては本を開いてあっという間に読んでしまった。一旦読み出すと次が気になって本当に読むのをとめるのが惜しいほど。ってシドニィ・シェルダンか。

内容は、主人公である元ダンサーの女性・志摩が、子供の頃のダンス教師であるオリガ・モリゾウナとその友人でフランス語教師のエレオノーラ・ミハイロヴナにまつわる謎を、奇跡的ともいえる親友との再会と、多くの協力者との出会いを経て解明していくというもの。

小学校時代のエピソードと、謎解きで出会ういろいろな人々と事件、そして収容所でオリガ・モリゾウナとエレオノーラ・ミハイロヴナと一緒にいたという人物の手記や証言をもとに構成されているこの本は、そのエピソードの一つ一つが面白く、また志摩とその親友カーチャの友情の深さが心温まる一方で、登場人物が巻き込まれたスターリニズムの台頭や冷戦といった時代の荒波が生んだ多くの悲劇に戦慄してしまう。その緩急がたくみなのと、話が核心に近づいたところで時間切れになったり、相手の体調が著しく悪化したりと良いところでお預けを食らわされてしまう巧みな構成についつい引き込まれてしまった。
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by turujun | 2008-05-25 16:34 | 書物