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舞台や展覧会など、さまざまな鑑賞活動の記録を綴る。タイトルとの関連はありません。


by turujun
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リミニ・プロトコル「Cargo Tokyo-Yokohama」【ネタばれあり】

「ついに…」私の今秋のハイライトというべき一大イベントに参加してきた。大げさにいうと、これを観られなかったら今年は終われないぐらいに思っていたので、観たというだけで実は満足だったりする。


【まだ上演中なので、観るよていのある方はこれ以降読まないことをおススメします。ネタばれがあるから。】




さて、これは、フェスティバル・トーキョーの演目の一環として上演されている作品なのだが、普通の演劇作品とは違い、会場はトラック。わざわざヨーロッパから船で運んできたという一台。通関と日本国内での走行の認可をとるのにえらい時間がかかり、F/Tが始まっても開催時期が未定だったといういわく付きの作品なのだ。

先日、チケットが取れたあまりのうれしさに珍しく感想以外のコメントをアップしてしまった。それこそツイッターにでも投稿すればよいのに、といった内容なのだが、いかんせん45名が定員、日曜日は休み(安息日だからか?)という公演なので、全期間通しても乗れるのは1000人ぐらいかな?要は帝国劇場の定員より少ない。よってチケットが争奪戦になるのは目に見えていて、実際チケットを取るのは思った以上に大変だった(でも正攻法で取りました。)

そして迎えた当日は…雨だった。車体側面がマジックミラーになっており、外が見える構造になっているとはいえ、雨なものだから水滴がついて見にくい、そして冷たい雨なものだから、車内と車外の温度が違う。すると起こるのは、ガラスの曇り。快適な観賞への2重苦があったのだ。

とはいえ、ずっと外を見るようになっているわけではなく、スクリーンが時折下りてきて映像が流れたり、マジックミラー側のフレーム部分に沿って流れる字幕が流れたりする。
映像は、運転手であるハタナカさんとアオキさん(この方は日系ブラジル人)の運転席の様子を流したり、通過する場所の近くで働いている人のインタビューを流したり…と内容はさまざま。
その一方で走るトラックと併走するママチャリがいたり、ものすごい装飾のデコトラが隣車線を走っていたりもする。
仕込みと明らかに分かるものは多いものの、「そうなのかな?」もあるので、乗っているうちに、「あれも仕込みかこれも仕込みか」と、リアルと虚構の境目が曖昧になっていくのが感じられた。
また、目の前でフォークリフト操作の実演をしているのにあわせて車内ではワルツが流れたりと、目の前で起きていることに対し別の要素を加えることで全然違う意味のものに変えてしまうようなところも面白かった。

天王洲アイルのクリスタルヨットクラブの駐車場から、横浜に向けて「貨物」となって走っていく中で分かるのは、日本の景気が非常によくないという事実。それは豊富なキャリアを持つ運転手2人の会話の中にある「景気の良かったころ」の貨物集積所や港周辺の様子の話と目の前に広がる光景のギャップでいやおうなしに
浮き彫りにされてくる。

トラックに乗って観る移動型演劇、ということで十二分にエンタテインメントでありながら、実際の社会のありようを取り込み、「今」を「作品」としてしまう。そんなリミニ・プロトコルは今回もやはり冴えていた。


今回の作品を観ていて、マイケル・ムーアをふと思い出した。事実を組み合わせて一つの作品にする、というあたりに共通点が感じられたのだ。
でも、マイケル・ムーアが一つのテーマ(答えといってもよいかも)に向かっていくためにいろいろな要素をくみ上げていくのに対し、リミニ・プロトコルは答えは用意しておらず、一つのテーマというかカテゴリの中にあるさまざまな要素をゆるいくくりでまとめていき、それをミックスして提示しているから、見た後に残るものはずいぶんと違うが。

今回は痛恨の雨の中の観賞ということで、上記のような観づらさはあったものの、やはりリミニ・プロトコルが面白いことには変わりがない。
by turujun | 2009-12-11 15:00 | 演劇